photo by Justin Curfman
チェコスロバキア・プラハ生まれのアニメーションの巨匠、ヤン・シュヴァンクマイエル。
日本での知名度はそれほど高くはないですが、シュルリアリズムの巨匠にして、アニメーション映画の代表的人物。その唯一無二の独特な表現手法は世界中のアニメーションファンや芸術家を魅了しています。
そんなわけで今回はヤン・シュヴァンクマイエルの映像世界についてご紹介。おそらく初めて知る人は、今まで観たことのない映像芸術と出会えると思います。
唯一無二のアニメーション手法
まず何と言ってもヤン・シュヴァンクマイエルの最大の特徴が、その唯一無二のアニメーション手法。CGは一切使わず、ストップモーションと呼ばれる手法で作品を制作しています。
実写動画と背景、モノなどを張り合わせて動かしたり、人形や食べ物などを生きているかように動かしてみせる独自の演出。
食べる行為や舌使いの描写など、作中にはグロテスクな表現も多く、始めて見る人は結構なインパクト(人によっては生理的な嫌悪感)があると思います。
「CGを使わない」ということが作者のこだわりのようですが、リアルなモノが実写とともに動いている映像はCGよりも遥かに印象が鮮明です。
グロテスクな「食べる」シーン
シュヴァンクマイエル作品では「食べる」シーンが頻繁に扱われますが、これが何とも気持ち悪く、意図的に不快感を煽るような演出。
「子供の頃から食べるということが好きではなかったからだ」
ーーシュヴァンクマイエルのキメラ的世界
本人がそう語るように、シュヴァンクマイエルにとって「食べるということ」というものはグロテスクなもの、醜いものとして捉えられており、作中にもそのような描き方がとても多いです。
執拗なズームや舌なめずりの露骨な効果音など、生理的な部分に迫ってくるような描写はその典型的な演出。
「食欲と性欲は類似する」などと言われることがありますが、シュヴァンクマイエルにとっての「食べるという行為=食欲」は「性欲」と同じくグロテスクで、羞恥的なものなのかもしれません。
模型など立体物を使った緻密な創作
CGを使わないシュヴァンクマイエルの作風の中では、リアルの模型や人形、造形物が物語の中にふんだんに取り入れられています。
photo by Paul
photo by Paul
photo by Lorenz Seidler
photo by Lorenz Seidler
photo by Paul
作中に登場する模型や人形、造形物は映画撮影においては小道具などの位置づけですが、そのクオリティは高く、造形作家として展覧会を開催するほど。妻・エヴァとの創造的なパートナー関係のもと、自身の造形作品の展示会は頻繁に開催されています。
ドキュメンタリー「シュヴァンクマイエルのキメラ的世界」には、作中に登場する木人形を制作するために、シュヴァンクマイエル本人が実際に森に足を運んで素材を調達する姿も。
このような作品の細部にまで及ぶこだわりが、独特の世界観を作り上げています。
おわりに
シュヴァンクマイエルの最大の魅力は、過去・現在のどんな作品にも類似しない、唯一無二の映像手法。
全ての作品が斬新で、ストーリーのステレオタイプや同じような表現手法が存在しない。現代のCG技術にも頼らず、先人が作り出してきた手法にも一切とらわれない。
全くの独自のインスピレーションで創造され、独自の評価を得ている作品ばかりです。
レンタルショップにはなかなか置いていない、日本ではまだ知名度が低い作家ですが、まだ観たことがないという人はぜひ挑戦してみてほしいと思います。