photo by Alexis Fam
数年前に話題になった、自殺をテーマにした衝撃的なドキュメンタリー映画「ブリッジ」をご紹介。
カメラの目の前で起こる「本物の自殺」を撮影した超問題作です。
ドキュメンタリー映画「ブリッジ」
photo by Daniel Peckham
映画の舞台はアメリカ・サンフランシスコの象徴、毎年900万人もの観光客が訪れるゴールデンゲート・ブリッジ。全長2,790m、高さ230m、海までの距離66mの巨大な吊り橋はアメリカの代表的な観光地であると同時に、実は世界最大の自殺の名所という、裏の顔も持っています。
そんなゴールデンゲート・ブリッジで起こる自殺をテーマとし、1台のカメラを設置して実際に目の前で起こる「本物の自殺」を撮影した超問題作がこのドキュメンタリー映画「ブリッジ」。
「ブリッジ」は2004年から2005年にかけての1年間、ひたすら取り続けた自殺のリアルな映像と、自殺者たちの姿を語る関係者へのインタビューによって構成されており、2006年にアメリカで公開されると大きな反響、賛否を巻き起こしました。
実際の自殺者の映像を撮影
photo by tracy apps
この作品が衝撃作と呼ばれる理由は、実際にカメラの前で起こる自殺の映像をおさめていること。映画の中では全部で24人が橋から海面に向かって飛び込む姿が撮影されています。
自殺をテーマとした作品で、実際に人が死へ向かう姿を撮影するという試みはおそらく映画史上初。当然ながら、この撮影手法には上映後激しい賛否両論を巻き起こしました。
カンヌ、ベルリン、サンダンス等の映画祭では「なぜ“観察”するだけで自殺を止めようとしなかったのか」との批判から上映を拒否、当初予定していた上映館数よりも縮小せざるをえない事態となりました。
このような批判について監督のエリック・スティールは、「誰かが柵に足をかけたらすぐに管理局に電話をする」というルールのもと撮影をしていたと語っています。さらに「映画の作り手である前に人間」と述べており、「撮影中、6人の命を救うことができた」とも語っています。
関係者へのインタビュー
photo by Thomas Hawk
この映画を構成するもう一つの軸となっているのが、自殺者の遺族や友人、目撃者へのインタビュー。
インタビューの中では自殺者が生前どのような人生を歩んでいて、どんな性格だったか語られ、精神の病や様々なトラブルを抱えていた姿が描き出されています。
自殺に至るまでのそれぞれの理由、経緯や一つの死が周囲に与えた影響、死を決意した一人の人間の想いなど、一つ一つのインタビューがかなりダークで、そして何よりリアル。すべて真実だけに、胸に迫るものがあります。
中でも印象的なのは、橋から飛び降り着水たものの奇跡的に一命をとりとめた若者のインタビュー。
落下している最中に「生きたい」と思ったという彼本人の口からは、躁鬱に悩まされた過去や何度も自殺を考えていた苦しみや、自殺未遂をしたことで周囲から腫れ物のように扱われるようになったことなど、リアルな告白が語られます。
このような実際の関係者のインタビューの中から、自殺という現代社会が抱える問題の深刻さや、自殺願望者が周囲に対して感じる心理的な距離・壁の大きさが感じられるような内容になっています。
作品のテーマと制作者の意図
この作品を制作するきっかけとして、監督のエリック・スティールは次のように語っています。
「弟を癌で亡くして、その直後に妹も亡くなったんです。それがきっかけで、一時期大きな絶望に襲われました。そのときに一瞬、自殺を考えたりもしたんです。今は、その(自殺という)考えが頭の中に残らなくて良かったと思っています。でも同時に、それが常に頭のどこかにあり、死にたい、自殺したいという方がいることも知っています。自殺したいと思う人々というのは自分からそう遠くない、彼らのいる世界は私自身の世界と異質なものではないという感覚が自分の中にあったんです。非常に扱いにくく難しい問題ですよね。こうしたものを題材にすることを不可能だと思うか、反対にエキサイティングなチャレンジとしてとらえるか…。多分、僕にとっては、大いに受けて立つ価値のあるチャレンジだったからじゃないでしょうか。自殺に関して、今まで人が見たことがない側面を描く良いきっかけ、機会になるんじゃないか、そういう思いに駆られて全てが始まったんです」。
また、作品の内容や制作してみて持った感想については次のように語っています。
「このストーリーを伝えるか、無視するか、という二者択一を迫られれば、やはり伝える方を選ぶわけで、あのままではあの橋での自殺者は増える一方だったと思うし、この映画を作ることでゴールデンゲート・ブリッジ管理局の自殺対策の考え方が変わったことを考えると、作った価値はあると思う」
引用元映画.com
「交通の往来が多く、それまで自殺が多発した場所を選ぶのは、止めてほしいという感情のかけらがあり、また、誰かとつながりたいというかすかな望みの現れではないでしょうか」
引用元朝日新聞DIGITAL
このように作品の背景には、社会でタブー視されている「自殺」について、その実際の映像を使うことで存在を明らかにし、目を向けてもらうこと、またそれが身近なところで起こる出来事であることを伝えることで、人々の意識を変える意図があったのだそうです。
おわりに
R15指定作品でもあり、万人にお勧めできる作品ではありませんが、一方で色々と考えさせられる内容であることも事実。
興味のある人はどうぞ。