日系イギリス人作家カズオ・イシグロ。ノーベル文学賞に近いもう一人の日本人。

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photo by Tanisha Pina

長崎県出身の日系イギリス人作家、カズオ・イシグロ。日本での知名度はそれほど高くはないようですが、国際的に高い評価を得ている作家の一人で、村上春樹などと並び、今や将来のノーベル文学賞候補とも言われています。

今回は日本に縁が深い、カズオ・イシグロの魅力についてご紹介します。

カズオ・イシグロとは?

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photo by English PEN

長崎県長崎市生まれ(1954年)。海洋学者の父親が北海で油田調査をすることになり、5歳の時にイギリスへ移住。 1978年にケント大学英文学科、1980年にイースト・アングリア大学大学院創作学科を卒業。その後1982年にイギリスに帰化しました。

もともとはミュージシャンを目指ざしていたようですが、作家に転身し、1982年に処女作『遠い山なみの光』 (原題:A Pale View of Hills) を発表。王立文学協会賞を受賞するなど注目の作家としてデビューし、その後次々に傑作を発表し、一気に国際的に評価の高い作家の一人となりました。

作歴・受賞歴

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photo by dalcrose

1982年、処女作『遠い山なみの光』(原題:A Pale View of Hills) で王立文学協会賞を受賞。

1986年、第2作『浮世の画家』 (原題:An Artist of the Floating World) でウィットブレッド賞を受賞。

1989年、第3作『日の名残り』 で世界的に権威のあるイギリスの文学賞、ブッカー賞を受賞。同作は1993年にジェームズ・アイヴォリー監督・アンソニー・ホプキンス主演で映画化(英米合作)。

1995年、第4作『充たされざる者』 (原題: The Unconsoled) を出版。

2000年、第5作『わたしたちが孤児だったころ』 (原題:When We Were Orphans) を発売。即ベストセラーに。

2005年、第6作『わたしを離さないで』 で2005年のブッカー賞、全米批評家協会賞、コモンウェルス賞、BBCブッククラブ賞の最終候補に選出。また発売後ただちにタイム誌のオールタイムベスト100(1923~2005年発表の作品が対象)に選ばれる快挙を達成。その他、アメリカ主要紙誌5誌から2005年のベストブックの一冊に選定されました。また、のちに映画化されています。

カズオ・イシグロの作風・特徴など

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photo by S.Tore

カズオイシグロの大きな特徴は、その静謐で繊細な文体。どこかもの静かで落ち着いているような印象があり、登場人物の「控えめさ」「繊細さ」を描くのがとてもうまいです。

特に、斜陽化していくイギリス貴族の執事を描いた第3作『日の名残り』では、イギリスの格調高い世界が、静かで美しく、主人公の控えめな視点から描かれており、他の小説にはない独特な雰囲気を醸し出しています。

このあたりは、なかなか説明しづらいのですが、カズオ・イシグロの大きな特徴的はこの独特な雰囲気のある文体ではないかと思います。

ただし、苦手な人にとっては「ちょっとくどすぎる」「インパクトがない」「飽きる」などの評価になることも。海外文学の古典が好きな人には比較的すんなり受け入れられるかもしれませんが、そうでない人には好みが分かれる作家かもしれません。

ちなみにカズオ・イシグロの両親はともに日本人。幼い頃にイギリスに移住しているため、日本語はほとんど話すことができないらしいです。

本人は、

「もし偽名で作品を書いて、表紙に別人の写真を載せれば『日本の作家を思わせる』などという読者は誰もいないだろう」
ー『文學界』2006年8月号

と言うように、日本人的な部分が作品に現れていることを否定しているようですが、文章の中に漂うどこか控えめでしみじみとした文体にはやはり日本人的な性格要素があるような気がします。

また、カズオ・イシグロは同じ現代作家の中で最も注目している一人として村上春樹を挙げており、村上春樹も「新しい小説が出るたびに、ほかに読みかけの本があっても途中でやめて、何はさておきページを開いて読み始めるという作家が何人かいる。カズオ・イシグロもそのような作家の一人である」(村上春樹「雑文集」)と言っています。

カズオ・イシグロの代表作

「日の名残り」

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

斜陽化していくイギリス貴族の執事を描いた代表作。気品ある英国執事の道を追求する主人公の想いが、静かで哀愁漂う文体で語られます。世界中で大絶賛され、権威あるブッガー賞を受賞した、カズオ・イシグロの代表作。胸にじーんと沁みるような読後感がある、繊細で美しい物語です。

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

「わたしを離さないで」

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

発売後ただちにタイム誌のオールタイムベスト100(1923~2005年発表の作品が対象)に選ばれるという快挙を達成した正真正銘の傑作。主要紙誌から大絶賛され、2005年に世界で最も話題になった、「カズオ・イシグロの最高傑作」との呼び声も高い作品です。内容はとても衝撃的で、一度読んだら忘れられない小説になると思います。

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。

2010年にはイギリスで映画化もされました。

おわりに

外国文学は普段は読まない方でも、カズオイシグロの文章なら読みやすいと思える人も多いと思います。

興味のある人は、まずは代表作をぜひ読んでみてください。

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