本当の豊かさって何?現代社会のストレスと幸福のパラドックス

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photo by Michael Dorokhov

ほとんどの人が衣食住に苦労しない現代。テクノロジーの進化により生活はますます便利になり、生活に必要な物も、そうでない物であっても、たいていの物は誰でも手に入れることができます。

歴史を遡ってみれば、こんなに豊かな時代はないわけですが、一方で、現代社会ならではの問題も顕在化しています。

一見豊かに見える現代社会は本当に幸福をもたらすのか?今回はそんなことを考えてみたいと思います。

現代人は本当に“豊か”なのか?

現在の生活に対する満足度

ちょっと意外かもしれませんが、直近の世論調査のデータでは、実は国民の67.3%、約7割の人が現在の生活に対して満足していると感じているという結果が出ています。

国民生活に関する世論調査 図3 - 内閣府

参照元平成25年度国民生活に関する世論調査-内閣府

生活面においては、満足できるだけの「豊かさ」があり、多くの人が十分と感じているようです。ただ、一方で現代特有のストレスの存在により、「心の豊かさ」が脅かされているとわかる次のようなデータもあります。

ストレス社会とストレスの原因

ストレス社会と言われるように、現代人はストレスを溜めやすく、そこから現代ならではの様々な問題や病気が生まれています。

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参照元平成20年度国民生活白書第1章第3節-内閣府

上のグラフをみると、現代人のほぼ半数、2人に1人が何らかのストレスや悩みを抱えて生活していることがわかります。

また、ストレスや悩みを抱えている人の割合は、増減はありますが一昔前に比べて増加傾向にあるようです。

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参照元平成20年度国民生活白書第1章第3節-内閣府

ストレスの原因で特に多いのが、①「収入や家計の悩み」、②「仕事や勉強の悩み」、③「職場や学校での人間関係」の3つ。

特に②と③は現代人を象徴するストレスの原因と言えますね。

現代人の病"うつ"と自殺者数

時間に追われたり、仕事量に忙殺されたり、睡眠時間が十分に取れないといった毎日が、知らないうちにストレスを溜め込み、心と体のバランスを崩しやすい状況を作っています。

そんな中、ご存知の通り、患者数が一昔前と比べて急激に増えている「鬱病」。

図録▽うつ病・躁うつ病の総患者数

参照元http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2150.html

上のグラフの通り、鬱病、躁鬱病の患者数は10年前に比べて2倍以上に増えています。

鬱病になる原因には様々な要素が考えられますが、やはり現代社会特有の「仕事や勉強のストレス」、「対人関係のストレス」、「時間に追われたり、プレッシャーによる緊張状態が続く生活習慣」が患者数の増加の大きな要因となっています。

一方、自殺死亡者数は平成10年に3万人を超えました。それ以降は、3万人を超える高い水準で推移をしています。

厚生労働省:政策レポート(自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて) (1)

参照元厚生労働省:政策レポート(自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて)

自殺者数の男女内訳を見ると、男性が女性の2倍以上の数となっています。自殺の原因・動機としては「経済・生活問題」が最も多いのですが、次いで多いのが「うつ病」となっています(下表)。

厚生労働省:政策レポート(自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて)

参照元厚生労働省:政策レポート(自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて)

上の表の通り、「うつ病」が原因で自殺する人の数は増えており、見逃せない社会問題となっていることがわかります。

“物質的な豊かさ”は“幸福”をもたらすか?

“豊かさ”は“幸福”に結びつかない

内閣府旧国民生活局が作成した「国民生活白書」のデータを見てみるととても興味深い統計が出ています。

それは経済的豊かさと幸福度が必ずしも結びつかないという統計結果。

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参照元平成20年度国民生活白書第1章第3節-内閣府

上のデータの通り、国民の経済的豊かさを表す指標である、1人当たり実質GDPの変化は上昇傾向であるのに対し、「生活全般に満足しているかどうか」(生活満足度)の5段階評価の平均得点で見てみると、それに反して下落傾向であることがわります。

つまり、経済的に豊かであるからといって、生活の満足度が高いとは必ずしも言えないということなんです。

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参照元平成20年度国民生活白書第1章第3節-内閣府

一方、先進国と所得水準が低い途上国でそれぞれ幸福度を調べてみても、似たような結果になります。

上の図は幸福度を調査している世界79か国を対象に、国民1人当たりGDPと幸福度を変数とした散布図ですが、所得水準が高くなっても幸福度はほぼ水平の位置、つまり所得が高くなることが幸福度には影響しないという結果が出ています。

幸福のパラドックス

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photo by Βethan

上のグラフで示した通り、国民の豊かさを表す実質GDPや所得水準は、生活満足度、幸福度と結びついておらず、逆にGDPが高まるほど満足度は下落するような結果になっています。

このように、経済成長、生活の豊かさが、生活の満足度につながらない現象「幸福のパラドックス」と呼ばれています。

これは日本だけではなく、他の先進諸国でも見られている現象です。

国連の世界幸福度報告書

国連で2012年より発表が始まった世界幸福度報告書(World Happiness Report)。

これは幸福度を指標化したもので、報告書には各国のランキングが掲載されています。

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参照元World Happiness Report 2013

直近の2010-2012の国別幸福度ランキング上位10ヶ国は下記の通り。

1.デンマーク
2.ノルウェー
3.スイス
4.オランダ
5.スウェーデン
6.カナダ
7.フィンランド
8.オーストリア
9.アイスランド
10.オーストラリア

ちなみに日本は43位、アメリカは17位、中国は93位でした。

WorldHappinessReport2013②

参照元World Happiness Report 2013

アメリカ、日本、中国はそれぞれGDP世界上位3カ国なのですが、国別幸福度のランキングでは10位以内にも入れていません。

先に述べたデータと同様、幸福のパラドックスが生じており、「国の豊かさ=幸福度が高い国」とはいえない結果となっています。

本当の“豊かさ”って何?

物の豊かさと心の豊かさ

おそらく“豊かさ”の定義は時代によって変化するものなのでしょうが、現代の特徴が「物の豊かさ」だけではなく、「心の豊かさ」も重要視されるようになってきたこと。

心の豊かさ・物の豊かさ

参照元平成25年度国民生活に関する世論調査-内閣府

上のグラフを見ても、物の豊かさを重視する人の数は緩やかに下落しているのに対し、心の豊かさを重視する人は増えており、全体の61.8%の人がそう回答しています。

現代は「心の時代」などと言われますが、物質的な豊かさはある程度満たされ、代わりに心の豊かさを求める時代になってきたと言えるでしょう。

労働時間が短い国の方が幸福度は高い

内閣府のデータでは労働時間が短い国の方が幸福度が高い傾向にあるという結果が出ています。

www5.cao.go.jp seikatsu whitepaper h20 10_pdf 01_honpen pdf 08sh_0103_04.pdf

参照元平成20年度国民生活白書第1章第3節-内閣府

余暇の充実によるストレスの発散、日常的倦怠から解放、疲労の回復は幸福度を高め、心の豊かさを充実させる効果があるようです。

現代人は「生活者=経済主体」であり、自ら働くことで物質的な豊かさを手していますが、労働の緊張状態から解放される時間を十分確保しなければ、心の豊かさは得られないということかもしれません。

おわりに

物質的な豊かさは必ずしも幸福度を高めるものではないということが、様々なデータからわかってきています。

日本でも生活に対する満足度は概ね高いのですが、一方でストレスやうつの問題などの問題が顕在化しており、「心の豊かさ」の水準はまだまだ十分とは言えないようです。

これからの時代は、物質的な豊かさよりもむしろ、「心の豊かさ」が重視される時代になっていくのかもしれません。