三大映画祭全てで受賞!巨匠エミール・クストリッツァ監督の魅力とは?

photo by Andrew Amerikov

2017年9月に、実に9年ぶりとなる最新作「オン・ザ・ミルキー・ロード」が上映され、日本でも話題となった世界的な映画監督・エミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)。

唯一無二の世界観と深いメッセージ性、強烈な印象の作中音楽や、作中にふんだんに散りばめられたユーモアなど、世界中から高い評価を得ています。

今回は、初めて知るという方にも理解できるように、世界的巨匠・エミール・クストリッツァの魅力についてご紹介します。

世界三大映画祭すべてで受賞歴のある世界的巨匠

photo by LuisCarlos Díaz

エミール・クストリッツァは、東欧の旧ユーゴスラビア・サラエヴォ出身の世界的な映画監督。

日本ではそれほど有名ではないかもしれませんが、世界的には、名だたる映画祭で多数の受賞歴を誇る、言わずと知れた映画界の巨匠です。

カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界三大映画祭すべてで主要賞の受賞歴があり、特にカンヌ国際映画祭パルムドール受賞経験が2度ある、世界でも数少ない監督。

その唯一無二の世界観は、世界中に熱狂的なファンを作っており、60歳を超えた今でも、その活動に世界が注目しています。

【三大映画祭の受賞歴】

ベネチア映画祭銀獅子賞(初監督作品賞)(1981年)
「ドリー・ベルを憶えている?」

カンヌ国際映画祭パルムドール(1985年)
「パパは、出張中!」

カンヌ国際映画祭監督賞(1989年)
「ジプシーのとき」

ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)(1993年)
「アリゾナ・ドリーム」

カンヌ国際映画祭パルムドール(1995年)
「アンダーグラウンド」

ベネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)(1998年)
「黒猫・白猫」

また、映画監督のかたわら、音楽バンド「ノー・スモーキング・オーケストラ(The No Smoking Orchestra)」にて、自身もギタリストとして参加し活動中。

photo by Emiliano Ortiz

ミュージシャンとしての活動も、国内外からの評価が高く、2008年には初のワールドツアーも敢行。

近年ではエミール・クストリッツァ作品の音楽のほとんどをこのバンドが担当しています。

エミール・クストリッツァ映画作品の特徴

ジプシー音楽とどんちゃん騒ぎ

参照元「アンダーグラウンド」(1995年)

エミール・クストリッツァの作品について、ファンの多くがイメージするのが、劇中で挿入・演奏される強烈な印象のジプシー音楽。

しばしば劇中に登場するブラスバンドによって演奏されるその音楽は、バルカン半島に多く存在したと言われる、ジプシー(ロマ民族)という移動型民族の伝統的な音楽(ロマ音楽)を下敷きとしたもの。

民族性豊かな旋律が、ハイスピード、アップビートで演奏され、それをバックに人々が踊る姿や狂乱する姿が描かれ、見る側にストーリー以上に強烈な印象を残します。

劇中の挿入音楽がとにかく印象的で、その評価が高いことは、エミール・クストリッツァ作品の最大の特徴。

一度聴いたら病みつきになる、劇中のサウンドを味わうことは、エミール・クストリッツァの作品を観る上での醍醐味の一つです。

戦争というテーマとユーゴスラビアという舞台

photo by Peter Denton

エミール・クストリッツァが生まれた旧ユーゴスラビアは、第二次世界大戦、1990年代のユーゴスラビア紛争・解体と、歴史的にも紛争を経験した地域。

彼の作品の中には、ユーゴスラビアを舞台として、第二次世界大戦、1990年代の内紛を描くものがいくつかあります。

第二次世界大戦から内紛に至るまでのユーゴスラビアの紛争の歴史を寓話的に描いた代表作「アンダーグラウンド」(1995年)を始め、内紛下の恋を描いた 「ライフ・イズ・ミラクル」(2004年)、そして隣国との戦時下にあるとある国での愛の逃避行を描いた「オン・ザ・ミルキー・ロード」(2016年)など、どれも印象的な作品が多いです。

参照元 「ライフ・イズ・ミラクル」(2004年)

戦争というテーマを、陽気で明るいタッチで描くところもクストリッツァ作品の特徴。

戦火がもたらす悲しみや怒り、理不尽さを描いた作品は、全体的に暗いタッチの映画であることが多いですが、エミールクストリッツァの作品は少し違った印象。

陽気で、ユーモア溢れるキャラクターがたくさん登場し、軽快なジプシー音楽の演奏と、ユーモア溢れるシーンがふんだんに盛り込まれています。

田舎の風景と動物たち

参照元「オン・ザ・ミルキー・ロード」(2016年)

エミール・クストリッツァの映画のもう一つの特徴が、田舎の小さな村や山奥の村を舞台とした作品が多いということ。

田舎での伝統的な家族の風景や、人々の生活が描かれることが多いです。

過去のインタビューで、「自然の景色からインスピレーションを感じる」と語っていたこともあり、監督自身が都会的なものや最先端テクノロジーなどよりも、どこか田舎的で民族的なものを好む傾向が強いようです。

「ライフ・イズ・ミラクル」(2004年)の撮影で使ったセルビアの小さな村を、自身で買い取り映画村にしたというエピソードもあるほどです(村の名前は「クステンドルフ(Kustendorf)」。“クストリッツアの村”という意味)。

参照元 「ライフ・イズ・ミラクル」(2004年)

また、作中に動物がよく登場することもエミール・クストリッツァ映画の特徴。

猿や鳥、ロバや牛、クマや蛇など、動物がストーリーの中で重要な役割を果たすことも多く、注目してみたいポイントの一つになっています。

一方、田舎での人間の生活の中に共生して描かれる動物の姿も印象的で、人間と動物の関わり合いによって、人間性を想起させているようにも観ることができます。

人間らしい生き方

参照元「アンダーグラウンド」(1995年)

エミール・クストリッツァ映画に共通する主題は、人間らしさ、愛すること、家族との関わりなど、「人間性」に関するものだと言われています。

劇中で登場人物によって演じられる、音楽に乗せて体を揺らす姿や、戦時下の悲惨な状況でも陽気に振る舞う姿、誰かを心から愛する姿は、どれも「人間らしい生き方」に帰結するように思われます。

「オン・ザ・ミルキー・ロード」(2016年)に関するインタビューの中で、彼は次のように語っています。

私の映画はいつも、自分がどのように人生をとらえているかを示しているのです。今後は、自分を愛のために捧げたいと思います。そう、愛のためにこそ行動を起こしたい、残りの人生は、そう思い続けるでしょう。

参考https://www.cinra.net/column/201709-emirkusturica

自身の祖国が解体し、紛争によって民族同士が傷付けあった歴史を目の当たりにする中、人間性や愛に関するテーマを虚構と寓話、ユーモアや音楽を織り交ぜつつ力強く描いてきたこと、そこにエミール・クストリッツァの最大の魅力があるのだと思います。

エミール・クストリッツァのおすすめ映画作品

パパは、出張中!(1985年)

サラエヴォを舞台に、父が強制労働送りにされた少年とその家族を描く人間ドラマ。

カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した、エミール・クストリッツァ初期の名作。

ジプシーのとき(1989年)

ユーゴスラビアの小さな村で生活する、ジプシーたちの暮らしを描いた映画。

キャストの大半を本物のジプシーで描いた、斬新で幻想的な傑作。

アンダーグラウンド(1995年)

ユーゴスラビアの第二次世界大戦〜内戦にいたる紛争の歴史を寓話的に映画いたブラックファンタジー。

言わずと知れた、エミール・クストリッツァの代表作で、映画史に残る不朽の名作。

黒猫・白猫(1998年)

ユーゴスラビアの田舎町に暮らすジプシーが繰り出す、ドタバタヒューマンコメディ。

カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した、賑やかでクレイジーな傑作。

ライフ・イズ・ミラクル(2004年)

戦争、笑い、動物、音楽、どんちゃん騒ぎ、そして愛。

戦争の虚しさをユーモア満載で描いた、エミール・クストリッツァらしい作品。

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