ビート・ジェネレーション – 1950年代アメリカで異彩を放った作家たち。

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photo by Konstantinos Koukopoulos

1950年代から1960年代にかけて、アメリカの文学界で異彩を放ち、当時の若者文化に大きな影響を与えた作家グループ、「ビート・ジェネレーション」。

最近では、河出書房新社の創業120周年記念企画「世界文学全集」の第一弾として、「ビート・ジェネレーション」を代表する作品「オン・ザ・ロード」(原題:On the Road)が半世紀ぶりの新訳で登場。また同作がウォルター・サレス監督によって2012年に映画化され、第65回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映されるなど、再び注目が集まっています。

そんなわけで今回のエントリーは「ビート・ジェネレーション」について、いろいろとご紹介します。

ビート・ジェネレーションとは?

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photo by bunky's pickle

ビート・ジェネレーション(Beat Generation)とは、冒頭で書いた通り、1950年代から1960年代にアメリカ文学界に登場し、当時の社会体制、社会の価値観を否定し反抗した一部の作家たちの総称のこと。ビートニク(Beatnik)と呼ばれる事もあります。

生年でいうと、第一次世界大戦期から1920年代までのアメリカの狂騒の時代に生まれた世代。代表的な作家としては、

・ジャック・ケルアック
・ウィリアム・バロウズ
・アレン・ギンズバーグ

この3名が特に有名。最盛期には当時の多くの若者たち、特にヒッピーと呼ばれる若者群から熱狂的な支持を受け、やがて世界中で広く知られるようになりました。

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photo by PeterTea

もともと、「beat」という言葉は「疲れた」「くたびれた」「ぼろぼろ」などの意味。「(社会から)打ちのめされた(beat)世代(generation)」、つまり「社会に適合しない落伍者たち」というような意味で一部のメディアで使われていました。

ただしそれは彼らが登場した当初の頃の話で、その後ジャック・ケルアックなどのビートジェネレーション作家自身が、「幸せを(beatific)」、「ノっている(on the beat)」などの前向きな意味付けを行うことになり、今では「ビート・ジェネレーション」というとこちらの方の意味で解釈されることの方が多くなっています。

「ビート・ジェネレーション」の思想と活動

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photo by Paul Townsend

「ビート・ジェネレーション」の思想の中心は、既存の価値観、社会体制を否定し人間性を解放しようとするもの。

そのような考え方を自らの作品の中で物語や詩として語り、自身のライフスタイルの中で体現するという文化活動・生活活動のようなものを行いました。

詳しくは後述しますが、当時のアメリカは第二次世界大戦後の成長期。保守的な中産階級が多数出現し、学歴社会や管理者会が形作られようとしていた時代です。

彼らはそれらに対するアンチテーゼとして、自堕落で刹那的な生活、原始的なコミューン生活、放浪の旅やアップビートな音楽での狂乱、ドラッグカルチャーの展開などを通じて、自由で人間的な価値観を追求しようとしました。

またポエトリー・リーディングという、作家自らが心に訴えかけるような口調で自らの詩を語る朗読会の活動も有名です。

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photo by Frank Beacham

これらの活動は当時の社会に疑問を持っていた、特に一部の中産階級の若者たちの価値観に大きな影響を与え、学歴社会や保守的な社会からドロップアウトし、家出した青年たちの熱狂的な支持を受けました。

「ビート・ジェネレーション」作家たちの作品群は、1960年代のアメリカに出現するヒッピーと呼ばれる自由奔放な若者たちのバイブルとして崇められ、現在のカルチャーにも大きな影響を与えています。

当時のアメリカの時代背景

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photo by Seattle Municipal Archives

「ビート・ジェネレーション」が出現した1950年代のアメリカは経済成長期であり黄金時代と呼ばれる時代。

第二次世界大戦の帰還兵に政府が経済的援助を与えたこともあり、中産階級層が拡大。政府の補助金や低利子貸付の効果もあって、郊外にマイホームが多く立ち並びました。

一方、産業の合理化が進み、製造業においては作業の単純化・細分化が促進。安価な商品が大量に生産され消費される「大量消費社会」が確立する中で、「人間が機械により管理される」というような皮肉も生まれました。

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photo by Ford Europe

また、サービス部門に従事する労働者が増えたのもこの時期。ホワイトカラーと呼ばれる非肉体労働者が増加した時代でもありました。

このような時代背景の中、個人の時間管理、行動管理などが進んだ「高度管理社会」や大学進学率の増加に伴う「学歴社会」が形成。戦後普及したテレビで放映される中産階級向けのドラマなどの影響もあって、次第に社会のステレオタイプが形作られ、拡散されていきました。

「ビート・ジェネレーション」の作家たちはこのような社会の変化の中で登場し、抑圧的で非人間的な当時の社会を批判、それに反抗する新たな価値観を体現しようとしたのでした。

「ビート・ジェネレーション」の代表人物

「ビート・ジェネレーション」というと特に下の3人が有名。それぞれ交流があり、一つのグループとして当時の若者文化を牽引しました。

ジャック・ケルアック

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photo by Thomas Fisher Rare Book Library

代表作は冒頭でも紹介した「オン・ザ・ロード」(原題:On the Road)。日本では長らく「路上」(訳:福田実、河出書房新社)のタイトルで親しまれてきましたが、「世界文学全集」編纂に際し新訳版が出版されました。

「オン・ザ・ロード」コロンビア大学中退後のアメリカ放浪生活を中心に書かれた自伝的な作品。当時はヒッピーなどから熱狂的な支持を受け、「ヒッピーのバイブル」とも呼ばれています。

また、この作品が愛されたことで「ビートの王」「ヒッピーの父」などとも呼ばれることもあり、ドアーズのジム・モリソンやボブ・ディランなど、当時のミュージシャンたちにも影響を与えました。

ウィリアム・S・バロウズ

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photo by Thomas Fisher Rare Book Library

代表作は「ジャンキー」(原題:Junkie)や「裸のランチ」(原題:The Naked Lunch)など。ドラッグが登場したり、猥褻、グロテスクな描写が多く登場する作風。「裸のランチ」は当時としては過激な内容であり、アメリカ政府から発禁処分を受け話題となりました。

私生活ではウィリアム テルをまねて妻の頭にのせたグラスを撃とうとして誤って射殺したり、同性愛の男性にふられて小指を切り落とすなど、かなり洒落にならないエピソードの持ち主。

彼の作品は当時の若者たちのみならず、作家やミュージシャンなどに現代に至るまで大きな影響を与えています。

アレン・ギンズバーグ

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photo by PeterTea

代表作は詩集「Howl and Other Poems(吠える)」。詩人でありジャック・ケルアックやウィリアム・バロウズと並んで、ビート文学の代表者のひとりです。前述のポエトリー・リーディングを行ったことで有名で、ヒッピーたちから圧倒的な支持を受けました。

作品やライフスタイルなどからは、機械文明や貨幣経済、近代資本主義を否定し、ひたすらに人間性を追求するというメッセージが強く表現されています。

着眼点を異常者や浮浪者などに当て、戦前の詩のような改まった文章ではなく口語体・路上言葉で書かれた作風は、その後の詩人たちに大きな影響を与えています。

【まとめ】

ビート・ジェネレーションは、ウッドストックやヒューマン・ビーイン、サイケデリックアートなどのキーワードが出てくる少し前の時期に登場し、そのようなカウンターカルチャーの前衛となりました。

60年代アメリカのヒッピーカルチャーなどに興味のある人はぜひ作品を読んでみてください。